香川県さぬき市多和助光東30-1(旧 多和小学校)
天体望遠鏡博物館開館後、主力機として活躍している五藤光学研究所製25㎝屈折赤道儀は、1970年代に香川県高松市 五色台山頂にある少年自然の家に、設置されていた天体望遠鏡です。
メインスコープは口径25㎝アクロマートレンズ、焦点距離3000㎜、口径比F12。
サブスコープは口径10㎝アクロマートレンズ、焦点距離1500㎜、口径比F15。
現在、50歳代の香川県のアマチュア天文家が高校生だったころ、大型天体望遠鏡の使用体験をさせてくれた望遠鏡です。この天体望遠鏡が復活するまでの経緯を紹介しましょう。
使われなくなって何年経っているのでしょうか。
スリット開閉ができない暗いドームに、眠っているかのようでした。
人物と比較してみるとこの望遠鏡の大きさがわかります。
望遠鏡本体の老朽化に加え、ドームそのものも故障し、スリットが開閉できない状態でした。施設内には別途、新築ドームに最新の自動導入の62㎝カセグレン式フォーク型反射望遠鏡が設置され、天体学習はそちらで行われるようになったため、使用されない状態が10年程度は続いていたようです。所管する香川県との下打ち合わせ、事前調査、回収作業手順の確定をし諸手続を完了させるまでに、ほぼ1年かかりました。そしていよいよ必要な機材も用意し、引き取りが実行される日がやってきました。
それは2008年5月31日のことでした。
サブ望遠鏡(102㎜ガイドスコープ、80㎜ソーラープロミネンステレスコープ、50㎜ファインダー)などのほか壊れやすいものを取り外していきます。
つづいてフードを外します。本来なら手で簡単に外せるものなのですが、錆付いているため錆を落とすところからスタートです。
フードが外れました。
25㎝対物レンズは、くもりはあるもののまだ生きています。
25㎝対物レンズセルを外します。万一の落下に備え、工事用足場で支え、その上に幾重にもクッション材を敷いています。
25㎝対物レンズをセルごと取り外すことができました。一人では持ち上げるのが不安になる重さです。サポート役にきてもらった工務店ハウスサービスの長町さん達に運んでもらいました。
レンズセルを取り外すと幾重にも組み込まれた絞り環が、現れました。この手抜きのない技を見たとき、一同、この望遠鏡を組み立てた職人さんに頭が下がりました。
サブスコープや25㎝対物レンズなどを外していくと、バランスが崩れます。用意した工事用足場を不動点位置程度までの高さまで組み上げ、バランスウェイト側を支えるようにします。
そして都度都度バランスウェイトを外して、ロック装置に大きな負荷がかからないようにします。とにかく一つ一つのパーツが、アルミではなく鉄の塊なので、このボルトを外すと次にどのようなバランスになるかを常に考えながら作業を進めます。
鏡筒の前部を鏡筒バンドから取り外します。鏡筒側とウェイト側の両側に足場を組み、万一、大きくバランスが崩れても足場で支えられるようにしています。写真ではストロボ撮影しているので明るく見えていますが、現場は薄暗い状態です。
鏡筒前部が外れるようになって、とんでもなく重いことがわかりました。
なんとか鏡筒前部を外せました。
時間はかかりましたが鏡筒後部も取り外せました。
次はドームスリットがなぜ動作しないのかをチェックするため、モーターのあるドーム最上部まで足場を組み上げていきます。すると、なんとモーターブロックに鳥の巣の痕が…。
これを取り払って動作を再度、試みますがFRP製の8メートルドームスリットを持ち上げるパワーは失われていました。鏡筒は分解して数人がかりでドアから搬出することができましたが、赤道儀はドアよりも大きい上に、あきらかにトンの重さです。どうしてもスリットを上げる必要があります。
ドーム外側から状態確認しましたが、やはりモーターではもはや開閉できないことが明らかになりました。
スリット開閉には、既存のモーター動力ではなく、クレーン作業で行うしかないと判断し、そのための治具を次回作業日までに制作することにしました。
この日は建物3階屋上まで搬出した鏡筒とバランスウェイトをトラツクに積み込み、東かがわ市の保管倉庫へ移動、搬入し終了にしました。
6月21日、作業再開です。必要な人員・機材はすべて揃いました。
スリットを開けるためにまず人力で少しこじ開けます。次に厚さ5ミリ程度のスリットがクレーンの力が加わっても破損しないように、表裏から補強材で挟み込みます。この補強材にはクレーンのつり金具が取り付けられるように加工をしています。この日のクレーンオペレーターは世界有数のクレーンメーカー「タダノ」の取締役が指名して呼び寄せてくれた凄腕職人さんです。絶妙の操作で丸いドームに沿わせてスリットを開けていきました。
何年も日差しが差し込まなかったドーム内がまぶしいくらいに明るくなりました。赤経・赤緯の微動ハンドルとかロックレバーとかがつり下げ中に破損しないように、ローブで固定しておきます。
クレーンからワイヤーが下ろされてきました。
つづいてクレーンで持ち上げたときに、振り子のように大きくゆれて、壁面激突ということがないように、クレーンとは逆方向からロープで引っ張っておきます。
それでも、大きく振られないようにするのは大変です。
動きが落ち着いたところで記念撮影。
このシーンはこの現場にいた者だけが見ることができます。ところでドームは3階の屋上にありますから地上のクレーンオペレーターからドーム内部は見えません。インカムのやりとりで作業を行います。クレーンでゆっくりとつり上げながら、スリットを通します。写真でもわかるようにスリット巾ぎりぎりでした。
ドームからトラック荷台につり下げていきます。
このときに赤経・赤緯の微動ハンドルとかロックレバーとかが赤道儀本体の重さで、押しつぶされないように注意して、枕木の位置決めをしていきます。車載クレーンも使って2つのクレーンで慎重に作業を進めます。
布団、毛布が役に立ちます。
赤経・赤緯の微動ハンドルとかロックレバーがなかなかうまく収まりません。
なんとか安定させることができました>
つづいて、架台の下部、いわゆるチューリップをクレーンで持ち上げます。これは実に重いです。揺れ防止のために左右2方向からロープでコントロールしているのですが、クレーンの動きにうまく合わせないと体ごと引っ張られます。万一、ドームに当てると、「バリン!」です。とにかくゆっくりとした動きのクレーンコントロールが必要です。
ピラーの基礎が現れました。これで五藤25㎝屈折式赤道儀の搬出はできました。あとは、保管倉庫への搬入です。この搬出作業で我々は多くの搬出技術を学ぶことができました。
分解引き取りを行った2008年から7年後の2015年7月組み立てを開始しました。
大型望遠鏡観測室(スライディングルーフ)に架台ベース部を設置します。
床には、事前に多和地区での太陽正中時の南北線がマークされています。
赤経ウォームギアの動きを確認するため赤道儀を仮組みします。
分解して床においているときにはこの作業はできませんでした。
モータードライブがまだ稼働できないので、電気ドリルと
モータードライブシャフトを直結してウォームホイルを回転させます。
ウォームホイルに溜まっている汚れや古いオイルを洗浄していきます。
小型赤道儀とは比べものにならないほど大きなホイルなのでとにかく根気強く洗浄。
接眼ドロチューブを確認してみると、とても動きが渋くなっていました。
与圧カバーを外してみると ピニオンシャフトに歪みがあります。
あまり叩きすぎて折れると怖いので、この辺で止めることにしました。
鏡筒外装を水拭き、コンパウンド磨き、ワックスがけしていきます。
25㎝レンズのメンテナンスはヨシカワ光器研究所に依頼しました。
セルからレンズを抜き出すのが大変だったという報告がありました。
写真ではよく伝えることができませんが、吸い込まれそうになる透明感です。