香川県さぬき市多和助光東30-1(旧 多和小学校)
五藤光学研究所製 10.2(4吋)赤道儀A型
10.2(4吋)赤道儀には木製三脚・重量40㎏のA型と、金属ピラー脚重量80㎏のB型があります。A型は移動式赤道儀の最高級品として製作され、B型は固定型として製作されています。赤道儀本体と102㎜鏡筒の仕様はいずれも同じです。
本機は木製三脚ですからA型です。カタログによるとA型は、「★移動式赤道儀の最高級品。テストにテストを重ねた完璧なシンクロナスモーターに加えて、赤経微動用の差動ギヤーは追尾を完全に補正します。バランスのとれたレンズ設計とともにその総合能力を充分に発揮する高級赤道儀です」とあります。価格は250,000円送料・据え付け調整費別となっています。1966年の大卒上級甲種採用の公務員初任給が23,300円ですから、月給の11倍になります。現在の価値だとおよそ220万円になります。
口径102㎜ 焦点距離1500㎜ アクロマートレンズ
ED=102㎜のEDはeffective diameterの略で有効口径の意味です。
異常低分散ガラス材であるEDレンズ仕様のアポクロマートではありません。
GOTO JAPANの刻印
GOTOは五藤光学研究所のプランド銘
寄贈者の内海様が入手されたときにはカビが発生していたとのことです。清掃後のカビ跡ですが、この大きさと範囲なら実用上の問題はないはずです。
接眼部はドロチューブ固定ネジ付きで36.4㎜径ねじ込み、24.5㎜径差し込みが使えます。
ピント調整はラック&ピニオン式で4本の固定ネジと2本の与圧ネジで動きを調整できるようになっています。動きはスムーズです。
ピント調整ネジですが、この凝ったネジの加工をみただけでも本機が高級機であることがわかります。
テフロンリングを使った現在の高級機よりも凝った構造であったことがわかります。
ファインダーが欠品しており、鏡筒を振ってみるとカラカラという音がします。小さな部品が鏡筒内ではずれている可能性が高いので、接眼部をはずしてみたところ、小さな六角ナットがでてきました。
寄贈者からこれがついていたはずですと渡されていたファインダー取り付け部のナットに一致しました。
ファインダー取り付け部を組み立てました。しかし1966年のカタログではA型のファインダーは2本脚です。B型は1本脚ですが、アリガタアリミゾ形式だったかどうかは解りません。これがオリジナル状態かどうかは不明です。(後日、この年代の望遠鏡の部品はよく変更されることがあり、カタログと異なることが多々あることがわかりました。おそらくこのアリガタアリミゾ形式はオリジナルと思われます)
赤道儀の動きに異常はありません。赤道儀の塗装はグレー色のエナメル焼き付け塗装です。1966年ですから50年以上前の製品ですが、いまだに艶があります。
赤経のウォームギアは大きく、分厚いもので、一般的な10㎝クラスとはまるで別物です。
動きに異常なガタ付きや堅さはありません。グリスを新しくすると素晴らしい滑らかさになると思われます。
カバーがあるためギア全体をみることはできません。径は赤経ほどの大きさはありませんが、歯の刻み方が細かくされていることがわかります。クランプ、微動ともに故障はありません。
五藤光学研究所のブランドロゴマーク入りの特製品です。
モータードライブは取り付けギア部品に一部欠品があり、組み立てできていません。
赤経目盛環。こちらもバーニア付。
バーニア無しで4分までは読めます。バーニア使用で30秒までは読めるようです。
赤緯微動ハンドルです。グリップのクラシカルなデザインに時代を感じます。
鏡筒バンドと鏡筒サイズはぴったりとフィットしており、大きめにつくってネジの閉め具合で留めるようなものではありません。シンプルな形状ですが、職人技を感じてしまいます。
三脚の開き止めは無骨な鉄板です。塗装はさび止め塗装で、赤道儀本体のエナメル焼き付け塗装のグレーと異なります。組み立て前には違和感を感じましたが、三脚に取り付けてみると、木部の色とよくあっており違和感を感じなくなりました。
本格的なメンテナンスはまだですが、50年以上前の望遠鏡と思えない動きです。
本機は2016年5月29日に福岡県の内海様からの寄贈品です。天体望遠鏡博物館のホームページから寄贈問い合わせメールがあり、会員が仕事の出張を利用して、内海様のご自宅にお伺いさせていただきました。
内海様に本機入手の経緯をお聞きしたところ、2008年9月、福岡県飯塚市の商店街を歩いていたとき、眼鏡店の2階ショーウインドーに望遠鏡を発見。最初はユニトロンかと思い、フジのGS645Sで写真撮影してると、お店の方から「どうぞ中に入ってご覧下さい」と声がけされたそうです。店内にはいって、近づいて五藤10㎝屈折赤道儀であることに気付き、あちこちさわっている内に、うれしくなって「譲ってもらえませんか」とお話されました。お店の方からは「社長に聞いてみます」とのことで電話連絡を心待ちにしていました。2日後、「格安で譲ります」ということになり翌日、受け取りにいったとのことです。
望遠鏡が「天体を見たい」と言っているような気がした。
このときの気持ち、天体望遠鏡マニアならわかりますね。
整備後、見え味を確かめたところ「すごくいい!」特に惑星は安定していて高コントラスト。短焦点とは違う見え味に満足されたそうです。
なぜこんなにいい望遠鏡を天体望遠鏡博物館に寄贈して下さるのか。
内海様によると、鏡筒はまだ充分に使えるのだが、大きすぎて稼働率は非常に低かった。これでは眼鏡屋さんのショールームに飾ってあったときとほとんど変わらない。それよりもできるだけ多くに人に見てもらったほうがいいだろうということで、親しい天文仲間とも相談して天体望遠鏡博物館への寄贈を決意されたとのこと。
とても有りがたい話です。
内海様の初めての望遠鏡は学研の「子供の科学」の付録についていたシングルレンズで自作した望遠鏡。その次がコルキットの8㎝シングルレンズ望遠鏡キット。その次が親に買ってもらったケンコーのSR-900。(本当はタカハシの10㎝反射赤道儀が欲しかった)
自分のお金ではじめて購入した望遠鏡はタカハシP2赤道儀とFC65鏡筒。その後、アスコスカイホーク21㎝反射経緯台、ニンジャ400などなど。眼視観望派と思われる機材群に囲まれながら、一方では超新星探索家として、タカハシEM200赤道儀+Sky Explorer SE200NCR鏡筒+ST2000XM冷却CCDなどの機材を自宅駐車場の観測小屋(全体移動式)に設置し、遠隔操作しています。
2016年6月下旬
本機の対物レンズの微少なカビ跡・汚れが今後、レンズに悪影響を及ぼすのを防ぐため、ヨシカワ光器研究所さんに、鏡筒部のメンテナンスを委託しました。
対物レンズの現在の状態を調べるため、ロンキーテストを行った際の像です。強い負修正があります。セルを分解したところ、本来の位置にレンズ配置ができていないことがわかりました。内海様に確認したところ、入手直後にメンテナンスを行ったことがあるとのことでしたので、その際に何らかの原因で、発生したようです。それでも良く見えていたということですので、F15長焦点屈折の良さがよくわかります。
レンズをクリーニング後、再度、ロンキーテスターで調整し、正しいレンズ位置に追い込んだ像が下の写真です。
ほぼ、まっすぐなラインを描くようになりました。これで製造時本来の性能を発揮できるはずです。
赤道儀もヨシカワ光器研究所にて分解・整備を行うことになりました。
続く